在りし日の姿を求めて 21
見立鉱山事業 その3 クラブハウス


建築学上でも貴重な見立鉱山
クラブハウス


国際色豊かな外国人技術者たち


国際交流の場として使われて
いる現在の英国館ホール

在りし日のH・ハンターを偲んで見立
鉱山跡も訪ねたいと思いつつ数年、
ようやく今年(2004)9月11日から2
泊3日で日之影町へ。

台風予報 と睨み合わせながら訪ねま
したが、宮崎空港へ着いた時は雨が
降ったり止んだりの不安定な天候。
翌朝、英国館へたどり着いた時は足
元から雨が襲ってくるほどの土砂降り
でしたが、しばらくするとつかの間太陽
が微笑んで彼岸花が真紅の色を輝
かせました。
      レーモンド事務所設計の見立鉱山クラブハウス

H・ハンターの経営時代に入って数年、全盛期を迎えた昭和6年には錫精
鉱556tの生産実績を示し、見立鉱山には鉱山従業員世帯340戸、従業
員465人、人口1,232名に膨らみ山峡には鉱山住宅と選鉱住宅、鉱山事
務所、集会所、物品販売所、診療所、外国人技師とハンター氏のための
宿舎兼クラブハウスなども建設され鉱山村が出現した。

昭和6年〜23年(1931〜1948)頃まで延岡〜見立間の物資輸送の運転
手をしていた藤本金雄さん(延岡市)によると、「精鉱輸送のトラックもフォー
ド社製だった」(1990年夕刊デイリー掲載)

クラブハウスは日本近代建築に数々の足跡を残しているアントニン・レーモン
が経営していた東京の『レーモンド事務所』の設計で、平屋建てで延べ床
面積約320平方メートル。約80平方メートルのホールの他に洋室4、和室4室
の個室があり、台所や食品貯蔵室、納戸、浴室などゆったりした間取りに。

建物の構造は日本の在来軸組み工法を主として用いているが、当時の日本
の洋風建築には余り見られないスタイルで、柱や梁、垂木には丸太材を用い
て小屋組みしている。壁や天井の仕上げ材として杉の木目の美しさを生かし
おり、ドアなども厚い杉板を組み合わせている。その技法や工法は建築学上
からも貴重な存在で、歴史の重みが漂う。

また中央給湯システムによるシャワーを備え、バスタブやスチーム暖房、暖炉
などの機器はすべて英国から取り寄せていた。当時の日本では珍しい電気
冷蔵庫や電気ストーブも使われており、 英国との生活水準の違いを知らさ
れる。

こうした先進的な住宅設備は、母国を遠く離れた異国の不便な山奥で慣れ
ない生活を強いられる外国人技師たちへのハンター氏の配慮であり、自身の
住まいや別荘へのこだわりも感じられる。仕事の面でも個人生活、趣味でも
最高のものを求めたハンス・ハンターの嗜好が見立鉱山にも反映されている。

ハンター氏はダービーハットに緑色のマント姿で年に数回見立を訪れ、クラブ
ハウスに逗留して、クリスマスには従業員家族に趣向を凝らしたおもちゃや学
用品などのプレゼントを。係長以上の社員を招いてパーティを開きすき焼きを
振舞って慰労したそうだ。

また、クラブハウスに逗留中は鉱山従業員の子供たちに蝶の採集を手伝わ
せて、お小遣いを渡していたという。この当時、ハンター氏は蝶の標本作りに
も凝っており、蝶のコレクターとしても国内有数の存在だった。

高千穂の五ヶ所高原にもハンティング用の別荘を設けて、管理人をおき猟犬
5頭の世話をさせていたそうだが、 日中戦争の拡大に伴い見立鉱山にも戦
争の影が…。


日之影町・英国館の旅思い出アルバムへ


暖炉を備え当時としてはゴージャスな
クラブハウスのホール
九州山脈の主峰祖母山を背にした
旧クラブハウス『英国館』
旧見立鉱山クラブハウスの玄関

在りし日の範多農園トップへ