三田村鳶魚(えんぎょ:1870−1952)江戸学の祖、生きた江戸の百
科事典とも呼ばれる随筆家、考証家。彼は八王子千人同心の末裔。
83歳で没するまで、ほぼ在野にあって 江戸の風俗の研究に情熱を
注いだ。
没後、中央公論社から27巻の全集が発刊(昭和50年)されている。
その17巻に 文字数8万字に及ぶ『玉川上水の建設者・安松金右衛
門』という論述がある。
考証の要点は、玉川上水の最大の功労者は玉川兄弟ではなく、安
松金右衛門であること。その出拠は時の老中松平伊豆守信綱が、
その臣・安松に下命して、用水開発に失敗した玉川兄弟に代わっ
て最終的には実現させたと説く。
鳶魚が拠りどころとしたのは『大河内家資料』(伊豆守の後裔所持)
と宮内省発行の『幼学綱要』である。
典拠の大方は野火止用水開発事業に費やされているが、その開発
の技量をみれば、工事請負人の玉川兄弟の技術をもってしては到
底困難であって、平林寺周辺を領していた老中松平の庇護の下、
安松の知識と周到な用意によってのみ、可能な事業であったと力
をこめて述べる。
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