代表作『武蔵野』で名高い国木田独歩は、現在のJR武蔵境駅あ
たりから玉川上水へと通ずる武蔵野の風景を愛し、散策しては
そこでの人と自然を描いた。
「武蔵野を散策する人は、道に迷うことを苦にしてはならない。
どの道でも足の向く方へ行けば必ず其処に見るべく、聞くべく、
感ずべき獲物がある。武蔵野の美はただ其の縦横に通ずる数千
条の路をあてもなく歩くことに由て始めて獲られる。 春、 夏、
秋、冬、朝、昼、夕、夜、 月にも、 雪にも、風にも、霧にも、
霜にも、雨にも、時雨にも、ただ此路をぶらぶら歩いておもひ
つき次第に右し左すれば 随所に吾等を満足させるものがある。
これが実に又、武蔵野第一の特色だろうと自分はしみじみ感じ
ている。武蔵野を除いて日本に此様な処が何処にあるか」
有島武郎の代表作 『或る女』のモデルとなった佐々城信子は、
独歩の最初の恋人であり、その後 破鏡の苦しみに見舞われる
が婚約当時によく歩いたのが、この辺りである。
そのかたみのように、今は三鷹駅北口の傍らに、三鷹の住人で
あった武者小路実篤の筆になる独歩のことば「山林に自由存ず」
の一文とその裏面には独歩のレリーフが飾られている。又玉川
上水の小金井にある桜橋の脇には『武蔵野』の文章の一節が在
地にの有志の発起によって刻まれている。
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